Hisashi Miura Song Lyrics



それぞれの道

 

もうこれ以上生きてゆけない

死んでしまいたいと思った

納屋にあったロープを手に

裏山の小道をのぼった

 

ロープを木の枝に結びつけ

腰を下ろし休んだ

母のことが思われた

孝一と勲の顔も浮かんできた

 

孝一と勲とは、小さな頃から

よく遊んだものだ

でも5年生の2学期ごろから

仲間はずれにされた

 

どうしてだか分からなかった

中学になるとさらにひどくなった

「ヤスオなんか死ね」「おめえなんか学校へくるな」

二人のことばが胸を刺した

 

中学3年の夏の終わり

学校へ行けなくなった

先生が心配して訪ねてくれたが

それでも行けなかった

 

母はおろおろしてぼくに聞いた

「ヤッチャン誰かにいじめられているの」

ぼくは黙って首を横に振った

頬を伝って涙が落ちた

 

ある晩父が「ヤスオがこうなったのは

おまえのせいだ」と母をなぐった

母は泣きながらぼくにいった

「ヤッチャンお願い、学校へ行って」

 

次の日の朝、ぼくは

学校へ行こうと思って家を出た

でも足が、足が動かなかった

学校へは行けなかった

 

もうこれ以上生きてゆけない

死んでしまいたいと思った

納屋にあったロープを手に

裏山の小道をのぼった

 

「ヤッちゃん、ヤッちゃん」母の声が

遠くから聞こえてきた

ロープから手を離し声のほうを見ると

息を切らせ走ってくる母が見えた

 

母はぼくにしがみついていった

「ヤッちゃん、ごめん、お母さんが悪かった

もう学校なんか行かなくてもいいよ」

母とぼくは抱き合って泣いた

 

その頃からよく吐き気やめまいに

襲われるようになった

変な声が聞こえてきたり

道ゆく人が狐に見えたりした

 

あれから8年、入退院繰り返し

今はデイケアーに通っている

友達もできたし、片思いだけれど

好きな人もいる

 

今はもう恨んではいない

2年前に死んだ父のことも

孝一や勲のことだって

恨んではいない

 

振り返るとなんて長い間

回り道をしてきたのだろう

でもぼくは悔やんではいない

人にはそれぞれの道がある

 

山を削って一直線に進む

高速道路もあれば

土ぼこり舞い上がる人けのない

細い裏道もある

 

ぼくの道はあの裏山の

曲がりくねった小道

これからもぼくはぼくの道を

歩いてゆくだろう

 

どこまでゆけるのか分からないけれど

一人歩いてゆくだろう

弱い者たちが押しのけられる

この時代を突き抜けて

弱い者たちが押しのけられる

この時代を突き抜けて

 


新しい光迎えよう

 

どんなに暗くても

明けない夜はないよ

ほらごらん、地平線を

新しい光、昇るよ

 

君には似合わない

打ちひしがれた顔は

窓を開け、風を入れ

新しい光、迎えよう

 

  君がひとつの光になるため

  君がひとつの愛になるため

  君の夢の彼方から

  新しい光、迎えよう

 

どんなに悔やんでも

過ぎた日々は戻らない

君の心の扉を開けて

新しい光、迎えよう

 

  君がひとつの明日になるため

  君がひとつの愛になるため

  君の夢の彼方から

  新しい光 迎えよう

 


俺もおまえも一人ぼっち

 

自分の影におびえ、自分の足音に追われ

あの町この町流れて、ここまで来たが

結局俺もおまえも一人ぼっち

 

あの角を曲がれば何かいいことがありそうで

もういくつもの角を曲がったけれど

結局俺もおまえも一人ぼっち

 

ヒーローになることを夢見て道化師になる人もいる

ヒーローになることを拒んでヒーローになる人もいる

結局俺もおまえも一人ぼっち

 

歌を歌う人もいる、詩を読む人もいる

祈りを捧げる人もいる、経を読む人もいる

結局俺もおまえも一人ぼっち

 

おまえは今どこに誰といるのだろう

おまえの瞳は今でも輝いているかい

結局俺もおまえも一人ぼっち

 

ラーララララーラーララララー

ラーララララー、ラーララララー

結局俺もおまえも一人ぼっち


結局俺もおまえも一人ぼっち




宝福寺にて 



楠の木の梢をわたって

気持ちのいい風が吹いてきます

彼岸花が散っています

秋ももうだいぶ深まりました



あれから長い時がたちました

あなたはもうお嫁にいったのでしょうか

あれほど苦しかったあなたとの別れも

今は心静かに思っています



ぼくは今、一人、旅に出て

雪舟が住んでいたというお寺にきています

ここにこうして坐っていると

すべてのものが流れているのがわかります



人も草も風も、時もそして愛も

すべてのものが流れています

その流れを見ているぼくもまた

すべてのものとともに流れています



その流れの中で人は生まれ

愛し憎みそして死んでゆくのです

そしてそこには何の意味もなく

ただ果てのない流れがあるだけです



人も草も風も、時もそして愛も

すべてのものが流れています

その流れを見ているぼくもまた

すべてのものとともに流れています



楠の木の梢をわたって

気持ちのいい風が吹いてきます

彼岸花が散っています

秋ももうだいぶ深まりました

 



山頭火

 

山頭火は乞食僧

水を求めて歩いた

日本の端から端まで

うたをつくって歩いた



山頭火の行く道は

果てしなく遠い

山頭火の淋しさは

空のように限りない



落ち葉降る山道を

どこまでも歩いた

重い過去を背負って

風に追われて歩いた



終わりのない旅を行く

強い風の中で

声を張り上げて

南無観世音



南無観世音

南無観世音

南無観世音

南無観世音




 

夕陽の中に立っている

大きな門に向けて

多くの人が歩いて行く

贖罪の羊を探しながら

年老いた番兵は笑顔を見せ

「さあこちらへどうぞ」と招き入れる

大事な夢と引きかえに

一人一人門をくぐる

失われたおまえの人生、誰が償ってくれる

失われたおまえの人生、誰が生きてくれる



この道を行けばどこへ行くか

知ってる者はいない

門の向うに何があるか

知ってる者はいない

踊る者は踊りつづけ

歌う者は歌いつづけ

怯えた子羊たちのなき声に

耳を貸そうとする者はいない

失われたおまえの人生、誰が償ってくれる

失われたおまえの人生、誰が生きてくれる

 

陽は沈み闇が門を覆い

人間の手が作ったものは見えなくなり

ただ追いつめられた鳥や木や花や

獣たちの呻き声が闇を満たす

世界は今傾きながら進む

大きな一つの船

オリーブの小枝くわえた鳩は

もう戻っては来れないだろう

失われたおまえの人生、誰が償ってくれる

失われたおまえの人生、誰が生きてくれる

 


松毬



今この夜の静寂の中で

あなたがおいていった松毬を見ています

昨日の午後、真如堂で

あなたが拾い上げたかわいい松毬



これが最後ねとつぶやきながら

あなたはぼくの手に松毬を乗せました

辺りには人影もなく

梢を渡る風だけが悲しく歌っていました



いつまでもなくさないで欲しい

あなたの優しい心、瞳の輝きを

そしていつまでも元気でね

別れて行くあなたへのぼくの願いです



  手に取るとカサカサと乾いた音がして

  ちょっぴりぼくを淋しくさせます

  どこかに置き忘れてきた思い出を

  あなたはひょいと拾い上げてぼくに渡してくれました

  今のあなたには思い出はいらないでしょう

  でもいつの日か思い出が欲しくなったら

  この松毬を取りに来て下さい



今この夜の静寂の中で

あなたがおいていった松毬を見ています

昨日の午後、真如堂で

あなたが拾い上げたかわいい松毬




幼い頃野原には

  

幼い頃野原には風吹きわたり

空は澄み、雲が流れ、木々は緑だったよ

貧しさがあたりに真実をさらけだし

偽りの入り込む隙間はなかった



春夏秋冬、季節はめぐり、年月は流れて

目の前の景色も何度も変わった

だが獲得したものはいつもわずかで

失ったものばかり多かった



風と空と木々の緑と

夕闇の中で黙々と働く

農夫の孤独をぼくの生活としたい



幼い頃野原には風吹きわたり

空は澄み、雲が流れ、木々は緑だったよ



神は死んだ


神は死んだ、神は死んだ

死んだ神にしがみつくな

死んだ神は生きかえらない

神は死んだよ


あの猿山の狂った猿が

われもわれもと

頂上を目指すさまを見よ

互いの足を引っ張りながら


おまえは頂上を目指すな

死んだ神にしがみつくな

山を下りてたったひとり

今来た道を引き返せ


そしておまえの心の中の

厚い壁の牢獄に

閉じ込められ卑しめられている

おまえの神を救い出せ


息を殺し、耳を澄ませ


何かが聞こえてくるだろう

新しい息吹がこの荒れ果てた大地に

生命を与えているから



流転の歌


真黒な炎は執拗に追い迫り

さそりの毒の雨が降りつづける

ものすごい速度で私は沈んで行く

すべてが止まっている深い海の底へ

深い海の底から一筋の光が生れ

光の中に夢が生れ

夢の中に愛が生れ

愛の中に苦しみが生れる


青白い稲妻とともに時間は破壊され

肺病やみの咳のような音は四方にこだまする

ただ手の上には限りない宇宙の暗闇と

惨めにも砕かれた私の青春がある

苦しみの中に希望が生れ

希望の中に子供が生れ

子供の中に心が生れ

心の中に憎しみが生れる


すべてこれらのものの流転の中で

どれが本当の自分なのか私には分からない

ただその時その時をその時の自分に忠実に

精一杯生きて行くより仕方がありません

憎しみの中に孤独が生れ

孤独の中に絶望が生れ

絶望の中に歌が生れ

歌の中に明日が生れる



パーティーは終わったよ


一人一人ぼくのまわりから音もなく去って行き

ぼくは窓の外の暗闇を見ている

金色の夕焼けはいつのまにか色あせて

野原には風が巻き起こっている


みんなそれぞれ欲しいだけのケーキを切り取り

葡萄酒を腹一杯飲みながら

誉め言葉や優しい言葉が交わされたけれど

笑顔は泣き顔に、やがて恨みに変わっていった


あなたは背中を曲げて闇の中を進んで行く

人々の嘲る声がかすかに聞こえてくる

過ぎ去ったものは夢のようにどこにもありえない

あなたが神と思っていたものは今はもう神ではない


あなたの後から誰かが呼びかけている

しかしあなたは振り向かない

あなたはその呼びかけに耳を傾けようとしない

ああ、誰もその呼びかけに耳を傾けようとしない




紙ヒコーキ


紙ヒコーキが欲しかったんだ

紙ヒコーキが欲しかったんだ

隣の清さんが持ってるような

紙ヒコーキが欲しかったんだ


それはもうずっと昔のこと

ぼくがまだ幼い頃のこと

隣の清さんが遊んでいた

紙ヒコーキを飛ばしながら


ぼくは母のところへ行って

紙ヒコーキを買ってと頼んだ

隣の清さんと一緒に

紙ヒコーキを飛ばしたかったんだ


それはひとつ五円の

小さな紙ヒコーキだったけれど

母は悲しそうな顔をして

また今度買ってあげるねと言った


生活が苦しかったんだ

毎日大変だったんだ

でもぼくには分からなかった

その頃の母の悲しみが


ぼくは手足をばたばたさせて

大声で泣き叫んだ

紙ヒコーキが欲しい、紙ヒコーキが欲しい

紙ヒコーキを買っておくれと


仕方のない子ねと

母はとうとう折れて

ぼくの右手に五円玉を

そっと握らせてくれたよ


汗ばんだ手に五円玉を

しっかり握りしめて

ぼくは駆けていったんだ

紙ヒコーキを買いに


紙ヒコーキを飛ばしたよ

夕焼け空に向かって

とっても嬉しかったんだ

でもなぜかちょっぴり悲しかった


紙ヒコーキが欲しかったんだ

紙ヒコーキが欲しかったんだ

隣の清さんが持ってるような

紙ヒコーキが欲しかったんだ




薫子


ここがぼくのふるさと、信州の田舎の町

どこを旅して歩いていても、忘れたことはない

あの山が王城山、この川が天竜川

今ここにおまえと二人、新しい朝を迎えよう


京都の町で生まれて育ったおまえには

信州の冬は長く、北風は冷たいだろう

でも信州の夏は爽やか、夜空は星であふれ

緑の風がどこまでも、高原を渡ってゆくだろう

おまえがいなければ、何も見えなかっただろう

おまえがいなければ、今もさすらっていただろう


ぼくが崩れかけた孤独な壁ならば

おまえは静かに柔らかく降りそそぐ雨

ぼくが苔むした淋しい石柱ならば

おまえは南の海から吹いてくる風
今おまえのおかげでぼくは、喜びにあふれる歌

今おまえのおかげでぼくは、自分自身だ

ここがぼくのふるさと、信州の田舎の町

どこを旅して歩いていても、忘れたことはない

あの山が王城山、この川が天竜川

今ここにおまえと二人、新しい朝を迎えよう



ガビオタの海



川の流れはとて静かだ

葉を落とした木々が並んでいる

黒いシルエットの枝のむこう

オレンジ色の太陽が沈む


岸辺に一人腰をおろし

川の流れみつめている

なんて多くの年月が

流れ去ったのだろう


多くの人と巡り合い

多くの人と別れてきた

喜びの朝、涙の夜

そのすべてを生きてきた


あなたと初めて会った時も

夕焼けがきれいだった

仲間からはぐれた水鳥が

波に追われていた


人けのないガビオタの海

あなたと二人すわっていた

互いに強く惹かれながら

ただ沈む夕陽見つめていた


あなたはあの時代そのもので

草や土の香り漂わせていた

あなたが何より望んだことは

自由であることだった


Make love not war, Revolution now

Trust nobody over 30, Do it, Love and Peace

多くのスローガンが声高に叫ばれ

誰もが虹色の未来信じていた


あなたもぼくもあの時代を抜けて

なんとかここまで歩いてきた

いくつもの過ち、後悔を抱きながらも

今ここにこうして生きている


時には思い出すだろうか

あのガビオタの海の夕焼けを

時には思い出すだろうか

仲間からはぐれた水鳥を


あなたに平和がありますように

あなたの願いが叶いますように

あなたが喜びに満たされますように

あなたが自由でありますように


あなたに平和がありますように

あなたの願いが叶いますように

あなたが喜びに満たされますように

あなたが自由でありますように

あなたが自由でありますように